今日もちゃんと食べてくれるかな。そう思って、ついわが子の口元をじっと見つめてしまう——そんな経験はありませんか?
実はその「見守りの視線」、子どもにとってはレストランで店員さんにずっと真横で見張られているくらいの、ものすごいプレッシャーになっているかもしれません。大人でも、誰かにじっと見られながら食事をするのは落ち着かないものです。まして感覚が敏感なASDやADHDの子どもにとっては、その視線だけで食欲がゼロになってしまうこともあります。
ASD・ADHDの偏食はなぜ起こるの?
ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)のある子どもに偏食が多いのには、はっきりとした理由があります。感覚過敏によって、食べ物の「におい・食感・色・見た目」が人よりずっと強く感じられることが多く、大人が「おいしい」と感じる料理でも、その子にとっては耐えがたい刺激になっていることがあります。また、いつもと違うものへの強い抵抗感(こだわり)や、口腔内の感覚の問題から、新しい食べ物をなかなか受け入れられないケースも少なくありません。
さらに、食事の場の「雰囲気」や「人の視線」「周囲の音」といった環境要因も、ASD・ADHDの子どもの食べづらさに大きく影響します。感覚が敏感な子は、食べ物そのものよりも、食卓の空気に先に圧倒されてしまうのです。
自閉症の子どもの偏食——親の関わり方がカギになる
自閉症の子どもの偏食に悩む保護者の方からよく聞くのが、「頑張って食べさせようとするほど、ますます嫌がるようになった」という声です。これは、食事の場に「食べなければいけない」という緊張やプレッシャーが生まれてしまうことで、食べること自体への苦手意識が強化されてしまうためです。
先日、札幌市西区の平和幼稚園で偏食講座を行いました。このママの視線プレッシャーのお話をすると、会場のお母さんたちから「やってる……!」と、大きなため息が漏れました。真面目で、子どもの健康を人一倍考えている優しいお母さんほど、無意識に食卓を「戦場」に変えてしまいがちです。愛情があるからこそ、心配するからこそ、つい目で追ってしまう。その気持ちはとても自然なことです。
でも、だからこそ知っておいてほしいのです。子どもは、親の表情や視線から「食事=緊張する時間」と学習してしまうことがあると。
偏食は治る?——「治す」より「整える」という考え方
「偏食は治るの?」というご質問をよくいただきます。ASD偏食の専門家として私がお伝えしているのは、「治す」というよりも「食べられるものを少しずつ広げていく」「食事の場を安心できる空間に整える」というアプローチが大切だということです。
焦って無理に食べさせようとすることは、子どもの食への恐怖心を強めるだけになってしまいます。一方で、食卓の環境を整え、プレッシャーを取り除いていくことで、子どもが自分から「食べてみようかな」と思える瞬間が少しずつ増えていきます。
偏食と給食——どう対応すればいい?
「偏食があると、給食はどうするの?」という不安の声も多くいただきます。幼稚園や小学校の給食は、家庭と違って食べ慣れない食材や調理法が並ぶことも多く、偏食のある子どもには大きなハードルになります。
まずは担任の先生や栄養士に、お子さんの苦手な食材や感覚の特性を丁寧に伝えることが第一歩です。「全部食べなくていい」「最初は一口だけでいい」など、先生と事前にルールを決めておくだけで、子どもの給食への緊張感はかなり和らぐことがあります。また、家庭での食事の場が安心できる場所になっていると、給食でも少しずつチャレンジできる力がついてきます。
まず試してほしい、たった一つのこと
ちょっと座る位置を変えてみる。視線を外して、お母さん自身がご飯を楽しんでみる。それだけで、子どもの食べづらさがスルッと解消することもあるんです。
「食べなさい」と言わない食卓、じっと見つめない食事の時間——そこから、偏食改善の第一歩が始まることがあります。完璧に食べさせることよりも、「食事は楽しい時間だ」と子どもが感じられる食卓をつくること。それが、ASD・ADHDの偏食に向き合ううえで、何より大切なことだと私は考えています。

